「好きです、ブタ肉」福多塚町


ホーム >  福多塚町立図書館・今月の一冊(ストーリー) 『ポークストーリー』前編

福多塚町立図書館・今月の一冊
『ポークストーリー』いま語られる、真実の物語
ポークストーリー前編 大きな体躯。赤いダブルに金のラインが光る服。特徴のある鼻と耳。
不釣合いな前掛けをして、その男はじっと手にした冊子に目を落としている。
「あー、ちぃと尋ねるが………ブタ肉はおいておらぬのか?」
憮然とした面持ちの男に、近くにいた店主らしき男は「冗談キツいっすよ」といわんばかりの笑みを浮かべ、
「あーゴメンねぇ、うちはブタなんか扱ってないンすょおー。」
そしてこうも付け加える。
「でもほら、やっぱり焼肉といえば牛でしょ?牛じゃない?ていうか牛だよねぇ!」
矢継ぎ早に続ける。
「おいしい牛ならたくさん用意してっすからっ!沢山食べてってよ!」

赤い服の男はめまいというか、もっと分かりやすく言うと気絶しそうになった。
店主の声を遠くに聞きながらつい数日前のことを思い出していた。


惑星イベリコ。そこはブタから進化した知的生命体の住む惑星。
赤い服の男は物思いにふけっている。ふと、若い頃に行った銀河系辺境の星にて、
ブタを創って置いて来たことを思い出す。
今頃どうなっているのだろうか。幸せに食べられているだろうか?
その星で一番になっているだろうか?早い話がキングオブミーツか?
ちょっとした遊びで調べさせてみると、すぐにその答えは得られた。
「ポークフィレ将軍。見たところなかなかよい感じで広まり、消費されているようですね。ケッコウです。」
との知らせ。
跳び上がるほどに嬉しい!我らの宝物が広まっているではないか!
では次の休日に、訪問してやるとしよう。

戻って、銀河系辺境惑星地球。
世界でブタといえばココ。ブタ肉シェアNo.01。常にブタ肉界でトップを走り続け、
圧倒的にブタ肉を輩出する養豚業で盛んな町「福多塚(ブタヅカ)市、福多塚(ブタヅカ)町」。
の、とある焼肉店「福多苑」内にて。


店主の言葉に赤い服の男「ポークフィレ」はワナワナと震えだす。
こ、ここはッ!ブタ肉で成り立っている町ではないのかッ!?
ブタ肉地球一のシェアを誇っている町ではないのかッ!?
なのに!店主が嬉しそうに「牛肉」なんぞを勧めてくるのがブカつく!じゃなくて、ムカつくッ!!!
この町でさえッこの体たらく!ブタ肉はッ!ブタ肉こそがぁッ!!
過去現在未来全時間全宇宙全時空全次元全概念で最も高貴なお肉ぅッ!

「お父さーん!特選牛カルビおかわりー!!んーおいしー!やっぱり お・に・く は『牛』だよねぇーーーー!!!!」

−ぶチッ−

火に油を注ぐとはこのことか。
ポークフィレのどこかのなにか、そのなんというか噛み切れない筋とかそんなんじゃなくて
そこが切れちゃうと日本語でいうところの激怒っていうかそのあたりの解釈が最も当てはまるという、
つまりそんな何かがキレちゃいました。

「ブむぅぅぅぅぅぅッ!!そ、そこのメス豚ども!あ、失礼。小娘ども!今なんと言ったッツ!?」
ポークフィレが立ち上がり絶叫する。
店主の度重なる侮蔑的な発言には、こらえた。
が、たまたま隣の卓でにぎやかに食べていた女の子達 〜桃(もも)、一久青(いくお)、らふて(らふて)〜 の
放った追加注文の「やっべ牛肉最高 → つまりもいっちょ!」は、ポークフィレの怒りを頂点、いやその向こうの5兆光年ぐらい先まで達しさせた。

「貴様ら…。モォー許さん…。」
いままで真っ赤だったポークフィレの顔からはみるみる血の気が引いていく。
携帯電話のような携帯電話を取り出して、どこかに指令を送った次の瞬間、焼肉「福多苑」は青い光に包まれ、
そして地面から離れ、銀色の円盤の中に収容されていった。
後編へ続く