まだ夜も覚めやらぬ暗い部屋。
ランプの光は、円卓を囲む3人の影を照らし出す。
「さいきん私、腕がおもいの。」
「最近わたしは、足がだるいわ。」
ピンク色の可愛らしい服を着た双子の少女が、同じタイミングで話す。
「姉さん…。もうちょっと待って下さい。すぐに彼女を手配します。もうちょっとの辛抱です。」
彼女らと対するように座っている、ピンク色の仮面を付けた大男。
双子の少女は息をそろえて話す。
「ねぇ本当に大丈夫なの?」
「うーん本当に大丈夫かしら…?」
息はぴったり。大男はそんな彼女らの声の音を楽しみ、答える。
「間違いは無いでしょう。あのエーデルワイスで第一人者といわれた、義肢技師ですよ。」
夜の闇に、良き者にも悪しき者にも同等に光を与える月。
今夜の血のように真っ赤に光る月が、今沈もうとしている。
「惚れた! この女、テレサ・ローズを我が妻にする! 決めた!
で、彼女の刑はどこまで緩く出来ると思う?」
”ローズ・ガーデンの凶行”と見出しのある新聞を握り締め叫ぶ一人の男。
巨大な体躯に浅黒い肌、顔の半分をマスクで隠しており、セントーレア国の影の実力者と噂される。
アンタッチャブル・モンスター「ビッグ・バーン」と人は呼んだ。
時は19世紀。場所は西欧。蒸気機関の新産業で人々が舞い上がっている頃の事。
エーデルワイス国に突如現れたテレサ・ローズ率いる機械兵団「ローズ・ガーデン」
世界を薔薇で覆うとして起こした大侵攻(後に「ローズ・ガーデンの凶行」と呼ばれる)は、
エーデルワイス国特殊部隊によって鎮圧される。
首謀者テレサ・ローズは逮捕され、「西欧平和維持連合」による裁きを受けた。
判決は大西洋上に浮かぶ孤島「ヘレニウム」への流刑。
花一輪も咲かない隔絶された孤島で、ただ生きているだけの日々は、テレサに十分過ぎる絶望をもたらした。
今が何時なのかテレサにはもうどうでもいい、良く晴れたある日。
ヘレニウムの地で、テレサとバーンの婚姻の儀が執り行われようとしていた。
最も嫌う、ニンゲンの・・・、しかもこんなに醜い男の妻にさせられるとは・・・。
ずいぶん非道い刑を考えつくものだ・・・。
満面の笑みのバーン。からっぽな表情のテレサ。
不意の一言に、テレサの心が動く。バーンの手下がバーンに耳打ちするささやき声。
「「ローズ・ガーデン」の紋章をつけた小型戦闘艇により、西欧平和維持連合本部が急襲されました・・・。」
瞳の奥に、再び小さな炎が点る。(娘達がまだ生きていた・・・!)
薔薇以外に私を捧げたくはない。だが、この身をこの男の妻に堕とし、再起を誓うのも面白い。
バーンは少し寂しそうに言った。「テレサの連れ子達か・・・。」
「お前を人質としても、交渉には応じてくれんのだろうしなぁ・・・。(殺すことも出来ん…。)
ならば!西欧平和維持連合軍はひっこめろ!!
我が親衛隊ロージ・フューチャーが直々におもてなししよう!!」
エーデルワイスの北隣、セントーレア国。西欧平和維持連合本部を覆う黒い煙。そして黄色い声。
「きゃはははっ!メイディ達の勝ち〜!!」「本部撃沈!っと!楽勝ぅ〜!」
「ま、ワタシのアシストのお陰かネェ! ところでマーマはどこ?」
「・・・。(ワタクシの作った子達の性能のお陰に決まっているでしょう・・・。)」
レースが号令する。「メイディ!ミディ!」「カスミ!」「シャスタ!」
「ママは既に大西洋ヘレニウム島だ。我々は今から「テレサ・ローズ奪還任務」を遂行する!!」
「イエス!ローズ!!」
鈍色に光る4機の刃羽(やいば)が、再び空を切り裂き、いよいよ世界を薔薇に染めるのか。